僕の顧問自称殿-そろそろお名前教えてください!-
 運転手は僕を見逃すこともなく(だいたいはスルーされる)バス停で止まり、僕は、行き先を3度確認してバスのステップを踏んだ。

 まばらな乗客を横目に、一人掛けの座席に座った。

 乗れた! バスに乗れたぞ。今日はなんてツイてるんだ。やっぱり、プラスマイナスゼロ説は正しい。

 今日から僕は、ツイて――

 キキイィィィィー。

 急ブレーキ。僕の体は前の座席に激しく打ち付けられた。

 え? ちょっと待て。待て。待ってくれよおぉぉ!!

 車体は横滑りしているようで、車窓に見慣れぬ風景を映し出す。というか、もう、片道3車線、進行方向が座席横の窓に見えるんですけど!

 そして、僕の体は徐々に角度をつけて傾きはじめ、真っすぐ前を見通せていた横の窓に、アスファルトの白線が近づく。

 頭の中で、コボコボと音がする砂浜と海中が交互に……っておい! もう、走馬灯!?

 海で溺れ、川で溺れ、湖で溺れ、車に撥ねられ、バイクに撥ねられ、自転車に撥ねられ……エトセトラ、エトセトラ……。

 いやいや、走馬灯見えるの早すぎるんじゃない? もうちょっと踏ん張ろうよ!!
 ほら、もうすぐで学校だよ? 入学式だよ? 人生初だよ?

 山で遭難し、崖から転げ、エスカレーターで大回転を決め、エレベーターに閉じこめられ……エトセトラ、エトセトラ……。

 校長の話だよ、ねえ、校歌だって皆と同じタイミングで知りたいじゃない。皆の前で名前呼ばれてさあ、裏返った声で返事してみた――アアァァァァァァ!!

 金属がひしゃげる凄まじい音と共に、僕の意識は暗転した。





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