僕の顧問自称殿-そろそろお名前教えてください!-
「おいぃ、達筆ぅ、俺の美声が聞えるかあ?」

 聞こえる。聞きたくないけれど、聞こえる。

 僕は、ゆっくりと瞼を開けた。
 霞む視界。次第に焦点が合ってきて、胸焼けのしそうなくらいの甘いマスクが脳みそのスクリーンに映し出された。

 殿だ。

「はあ、やっぱり痺れるなあ、俺って」

 殿は、僕の瞳をじっと見つめて、うっとり。熱のこもった溜め息を漏らす。
 この距離でこの表情だけ見たら、7割の日本人女性は卒倒するんじゃなかろうか。
 
 …………。あれだ。変態だ。
 僕の瞳に映る自分の顔を見て頬を上気させている奴を、まともだ、なんて言うやつがいたらここにつれてきてほしい。
 正座させてこんこんと1時間説教してやる。

「なんだ……生きてたの」

 え? 僕、生きてちゃだめですか、速記さん?
 がっくり肩を落とす速記さん。目に涙すら浮かべている。

「あ、あの、なんか、ごめんなさい……。生きてたりして……」

 思わず謝っちゃったけど……何か違うよね?

「死人の足の爪……欲しかったのに」

 ひい!!
 そそそ速記さん、長い前髪の隙間から恨めしそうな顔で僕を見ないでください!!
 僕の爪、ひっぺがそうとしてました!?

 それにしても、死人の足の爪って、何に使うのだろうか。

「あれさえあればあれさえあればあれさえあれば……」

 なんかブツブツ言ってるぅぅぅ!!
 噛み締めた唇から血が滲んでるし、どんだけ欲しいんですか!?

「達筆君、動ける?」 
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