僕の顧問自称殿-そろそろお名前教えてください!-
 逆さまの巫女さんの顔が、僕の視界にぬっと出現した。

 ああ、なんて綺麗な微笑みなんだ……。
 この人が、僕に矢を放ったなんてきっと夢だったんだ。
 こんな美しい人が目をつぶったまま、勘で矢を射ったりするはずない。

「どうかしら? ちょっと、足、動かして見て?」

 足?
 ……動かない。
 動かそうと頑張ってみるがうまく力が入らないのだ。しまいにはどこにどうやって力を入れればいいのかわからなくなるほど動かない。

「う、動きません……」

 あっ!?
 速記さん、巫女さんの後ろで目を輝かせるのはやめてください!!
 僕、生きてますから!!

「あんなに、刺さるからよ?」

 え。刺さった?

「えっと……何に?」

「破魔矢に決まってるじゃない」

 にっこりと。巫女さん、「蚊に決まってるじゃない」のテンションで言っちゃってますけど、破魔矢って射るものじゃないですよね? 寝室の鴨居に掛けたりするものですよね?

「ね?」

 すっごい笑顔でゴリ押ししてるしぃぃ……。
 夢じゃなかった……。嗚呼、泣きたくなるのは何故なんだろう。もういいや。でも、せめて「蜂に決まってるじゃない」のテンションで言ってほしかった。

「あの破魔矢は、霊に憑依されている人は無傷で済むけれど……ちょっと達筆君、一気に刺さりすぎよ」

 なぜか、僕が勝手に刺さったような言い回しに聞こえるのは気のせいだろうか?
 一応僕、必死によけてたんですけど。

「でも、初めてじゃしょうがないわよね」

 しかも、まばゆい笑顔でフォローされてしまった。

 ……何だろう、この違和感。僕、すっごい大切なことに気づいてないようなきがする。というよりも、全身全霊で気づきたくないような……。

「どっちにしろ成功してよかったわ、除霊」

 すっごい大切なこと、サラっと言っちゃったよ、この人ーーー!!
 というか、除霊ってナニーーーっ!?
 

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