僕の顧問自称殿-そろそろお名前教えてください!-
「どうしたんだ? 随分顔が青いぞ?
あ、元からか、ははははは」

 僕の元を知らない癖に、失礼極まりないことを言う教師もいたもんだ。

 そんなことは、どうでもいい。
 そう、入学式。
 出席できなかった……。

 あんなに慎重に、注意していたのに、どうしてだ?
 入学式は、もう残りあと一回しかないじゃないか。

 僕が何をしたっていうんだ。何も悪いことなんてしてないはずだ。
 いや、してないと言い切れる。

 幸運を掴み取るために、至って普通で安穏な生活を送ってきたんだ。
 欲だってない。あるとすれば、普通の生活を送りたい、それだけなんだ。

 なのに、どうして、入学式に普通に出ることも許されない?
 入学式だけじゃない、卒業式だって出席したことないんだぞ?

 決めた! 高校生活、今まで以上に普通で、今まで以上に無欲に過ごそう。

 授業中に挙手をしてクラスメイトから注目だって浴びないし、テストで平均点を超えないように努めよう。

 そうだ、お母さんに頼んで弁当は、毎日、日の丸弁当をこしらえてもらおう。彩り豊かな弁当なんて不幸を誘うに違いない。

 それから……。

「物思いにふけっているところ悪いね。ここにサインしてくれる?
その……あれだ……そう欠席届けだ」

 なぜか殿は、目をふんだんに泳がせながら、二つ折りにしたプリントをベッドの上の机に置いた。

「はあ」

 そのプリントを開こうとしたところで、

「ああ!! キミ、時間が無いんだ!
早くそこの空欄にサインを!!」

 急に声を荒げた。

 不審に思いながらも、相手は一応、教師(自称だが)。名前をフルネームで書いた。

 まあ。見たところ、何の変哲も無いプリントで、金融機関の契約書の類ではなさそうだ。



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