こんな物語
 幾ら悩んでも答えは出ないまま、時間は過ぎる。
 いつの間にかパーティーの時間になっていてラナルフは無駄を省いた正装に身を包み大広間へと向かう。婚約発表パーティーといっても、ただパーティーの最初に婚約したことを告げて、あとはただのダンスパーティーと一緒だ。リーシャがどれほど踊れるのかは知らないが、適当に観客の前で踊り仲の良いところを見せれば良いだけ。
 流石に婚約発表を兼ねているから今夜はほぼリーシャと一緒にいなければならないのだろうが、それくらいは我慢の範囲だ。まして、リーシャが相手ならばおかしな注文をつけてくることもないからある意味では気が楽というもの。


 「遅かったじゃないか」


 大広間へ続く入口にはリーシャが立っていた。婚約発表だというのに、来ているのは白では無く紺色のドレスだったが、彼女の髪にはよく合っている。馬子にも衣装とはこのことだとラナルフは胸中で思いつつ、面倒そうに返す。


 「遅刻したわけじゃない。それより、まさかその調子でパーティーに出る気か?」

 「まさか。私は王女としての責務を忘れたわけじゃないからね。きちんと民衆の望む王女に化けて見せるさ。普段がどうであれ、賓客が来ているときくらいはね」


 自信満々な笑みを向けるリーシャに軽く嘆息して、ラナルフは広間へと向かうためにリーシャに手を差し出した。
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