こんな物語
 静かな室内に、ラナルフが書類にペンを走らせる神経質そうな音が響く。
 それをリーシャはベッドの上で聞きながら、ラナルフの方をちらと見遣る。
 ラナルフの仕事机の上には到底、あの調子で仕事していては終わらないだろう書類の山。


 「一時間でも寝たらどうだ?
 疲れがたまっている状態で無理してやるより、一度休んでからの方が仕事も捗る」

 「もとはと言えば、お前が俺にカトリーヌを押し付けたせいでたまった仕事だろうが!」


 ピタ、と動かす手を止めてラナルフが怒気を孕んだ声音で返す。
 それにリーシャは可笑しそうに笑いだす。


 「だから、手伝ってやろうか、と言ったのに断ったのは君だろう。大体、時間的に彼女が君のところに居座ったのは精々3時間弱くらいの筈だ。
 その仕事の量を見るに、3時間くらいで片付くものとは思えないが?」

 「煩い。俺の邪魔をしたいのか?これ以上、邪魔をするようなら本気で怒るぞ」

 「それ、今日中に終わらせなければならない仕事はどれ程あるんだい?」

 
 ラナルフの脅しを全く無視して、リーシャは書類の山を指し示す。
 ラナルフは怒鳴りたい気持ちを抑え、こっちの山全部だ、とまだ手つかずになっている書類の山を示す。


 「そう。もう一度だけ聞くが、本当に手伝いは要らないのかい?」

 「くどい。お前に手伝ってもらうほど、困っちゃいない」

 
 そう宣言するラナルフに、リーシャはそれなら、とベッドへと横たわる。
 
 
 「私は寝るけど、君もほどほどに。じゃなきゃ、大事な時に倒れることになるからね」


 ラナルフはそんなリーシャを一睨みするが、すぐに仕事へと頭を戻す。
 結局、ラナルフの仕事が終わったのは翌日、リーシャが目を覚ます小一時間前だった。
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