こんな物語
 その日の夕方だった。
 ここ一週間がそうだったように、仕事に追われるラナルフを横目に夕食を摂るリーシャの目の前でラナルフが倒れたのは。

 遠くの資料を取ろうとして、椅子から立ち上がった際に立ちくらみでそうなるように、ふらついてそのまま倒れたのが、リーシャには良く見えた。
 リーシャは小さく嘆息すると、立ち上がってラナルフの傍へと移動する。


 「全く。本当に倒れるまで気付けないとはな」


 ラナルフが倒れた先は流石グレイリーというべきか、毛の長い絨毯でそこまで痛くは無かっただろう。見たところ、どこかを酷くぶつけた様子も無いし、ただ床に可笑しな体勢で倒れて眠るラナルフをリーシャは引きずりながらベッドへと移動させる。

 
 「……さて、此処からどうしたものか…」


 ベッドの横へと連れてきたのは良いが、自分の力では男で、それも長身であるラナルフを持ち上げてベッドの上へと移動させるのは無理だと理解する。
 熱がある様なら医師に見せなければならないだろう、とラナルフの額に手をおいても熱があるようには感じられない。
 それから少し、考えるようにラナルフを見下ろしていたリーシャだが、これなら暫く放っておいても平気だろう、とラナルフをそのままにして、部屋を後にした。
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