こんな物語
 前を見ると丁度、開かれた扉からラナルフ一行が入ってくるところだった。
 他を従え、先頭を切って歩いているのがグレイリー国の第二王子、ラナルフ・ベッドナー・グレイリー本人だろう。


 近くでみたわけでは無いから正確とは言えないが、横に座る父に向かって歩いてくるラナルフは長身なのだろう。彼の後ろに控え護衛をしているのであろう従者よりも背が高い。瞳の色までは解らないが、硬さよりも柔らかいイメージの方が勝る銀髪を歩くたびに小さく揺らす。無駄な装飾を一切省いたような彼の正装姿は逆に、彼の気品やそういったものを引き立てているようにさえ見える。
 ラナルフは国王の傍まで来ると片膝を折り、形式に則った完璧な挨拶を済ませる。リーシャの目に映るラナルフは完璧としか言い様が無かった。完璧すぎて胡散臭く見える程、完璧だった。


 「お初にお目にかかります、スウェイル国王陛下。ラナルフ・ベッドナー・グレイリー、婚約のお話を進めるため、参上致しました」

 「面をあげられよ、ラナルフ殿。堅苦しいのはここまでにしよう。長旅で疲れてもいるだろうし、もう少し気軽に構えてくれて結構だ」


 許しを得ればラナルフはゆっくりとその面を上げて立ち上がる。父も立ち上がり、ラナルフと話し始めればそれだけで堅苦しいのはそこで終わり。
 それこそグレイリーの様な大国ではありえないのだろうが、スウェイルという小国だからこそ出来る非常識な振る舞いだ。それでも大国出身であるラナルフは驚いた顔一つせずに国王と話しているのを見ると、できる男なのだろう、とリーシャは思った。
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