こんな物語
 そうして一人座ったままラナルフのことを考察していると、父からお呼びがかかる。
 ゆっくりと立ち上がり、父の傍へと歩みを進めると父から形式ばかりの紹介がなされる。


 「これが、貴方の婚約者となる我が娘、リーシャだ。あとは二人で暫くゆっくり過ごすと良い」


 たったそれだけ。だけれど、何も喋らないわけにはいかず、リーシャはラナルフに向かってにっこりと演技して微笑んで見せ、自己紹介をする。


 「お初にお目にかかります、ラナルフ殿下。リーシャ・フォンベルン・スウェイルで御座います。今回は私にと下さった縁談、とてもありがたく思いますわ。殿下はこのスウェイルに居ても尚、そのお噂を耳にするほどの有名人ですもの。」

 
 口先だけの嘘を並べ、微笑んでみせる。
 そうすると、反応したのはそれを受けたラナルフではなく、普段ならばこんな風に愛らしく微笑んだりしないと知っている周りに居る兄達の方。
 二人とも額に手をそえ、信じられないとか、見ちゃいけないものを見た、とか呟いているがそんなものは放って置けば良いと思う。
 だが、顔には表さなかっただけで、反応したのはラナルフも一緒だったようだ。


 「私も貴女のお噂はかねがね。ですが、……お噂とは、違うようですね」

 「どんな噂をお聞きになったのです?」

 「…その、貴方があまり感情をお出しにならない、と」


 言い難そうに答えるラナルフをリーシャは口角を上げる。


 「その噂を聞いて何故、婚約する気になったかお聞きしても?」


 尋ねるその瞳は、まるで獲物を追い詰めて楽しんでいる魔女の様な輝きを放っていた。
< 6 / 45 >

この作品をシェア

pagetop