こんな物語
婚約前夜
結局、顔合わせは挨拶だけで終わり、正式な書類へのサインや婚約発表は明日に繰り越されることになった。
リーシャは自室に戻ると直ぐに、装飾品や動き辛いドレスを脱ぎ捨て、着慣れた質素なドレスへと着替える。ドレスというよりも、ワンピースと言った方が良さそうな黒いスカート。リーシャの紫色の髪や双眸には良く合っていた。淡い色も着て着れないことは無いが、黒の方があわせやすいのだ。
「結局逃げられたか…」
綺麗に結わえられた髪も解き、簡単に一つに結わえ直しながらそう呟く。
折角、どうして結婚などしようと尋ねた矢先に兄達に邪魔されたのだ。本人達にそんな気は無く、ただ純粋にラナルフと話したかっただけなのだろうが、あのタイミングはリーシャにとって邪魔以外の何でもなかった。
聞いてどうなるというわけでも無いが、聞いておかなければこの先、身の振り方が困るのだ。受けてしまった以上、求められる責務は果たさなければならないし、何もするなと言うのならそうしたいのは山々なのだ。下手に演じ続けると嫁いだ後も演じ続けなければならなくなるし、厄介なことこの上無い。
どうしたものか、とベッドの上に寝転がり考えていると軽いノック音が室内に響いた。
リーシャは自室に戻ると直ぐに、装飾品や動き辛いドレスを脱ぎ捨て、着慣れた質素なドレスへと着替える。ドレスというよりも、ワンピースと言った方が良さそうな黒いスカート。リーシャの紫色の髪や双眸には良く合っていた。淡い色も着て着れないことは無いが、黒の方があわせやすいのだ。
「結局逃げられたか…」
綺麗に結わえられた髪も解き、簡単に一つに結わえ直しながらそう呟く。
折角、どうして結婚などしようと尋ねた矢先に兄達に邪魔されたのだ。本人達にそんな気は無く、ただ純粋にラナルフと話したかっただけなのだろうが、あのタイミングはリーシャにとって邪魔以外の何でもなかった。
聞いてどうなるというわけでも無いが、聞いておかなければこの先、身の振り方が困るのだ。受けてしまった以上、求められる責務は果たさなければならないし、何もするなと言うのならそうしたいのは山々なのだ。下手に演じ続けると嫁いだ後も演じ続けなければならなくなるし、厄介なことこの上無い。
どうしたものか、とベッドの上に寝転がり考えていると軽いノック音が室内に響いた。