こんな物語
 響いたノック音に、相手は兄だろうか、とも思うが兄ならノックをしても返事を待たずに入ってくる筈と思えば他に訪問者が思いつかなかった。それでもとりあえず、ベッドから起き上がり相手が誰でも良いように返事を返す。

 
 「どうぞ」


 返事を返すと扉がそっと開く。その様子に兄ではないと思ったが、入ってきたのは予想外の人物だった。
 

 「こんな時間に無礼かと思ったんだが、話の続きがしたいと思って。時間はあるだろう?」

 「…………随分、態度が違わないか?」

 「人のことを言えないと思うが?」

 
 にやり、と笑うラナルフの双眸は先刻よりもずっと、感情の入っているように見えた。

 
 「公の場だったから、王女らしく振舞う必要があった」

 「それはこっちも同じだ」

 「それもそうか。……それで?」

 「?」

 「話の続き、するんだよね?続き、ということは昼間聞けなかった答えが貰えると期待して、良いんだろう?」

 「………」


 ベッドに座ったまま、入ってきたラナルフを見つめる。なのに、いきなり黙ったラナルフにリーシャは怪訝そうに顔を顰める。ラナルフの視線は間違いなく自分に注がれている。気にした様子が無いから多少安心していたが、やはり昼間通りに話すべきだっただろうか、と多少困惑もする。悔やんだとしても、今更、取り繕うには遅すぎるのだけど。



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