こんな物語
 「どうかなさいましたの、殿下?」


 今更ではあるけれど、ショックで固まっていたのなら夢と思い込ませれば良い、とリーシャはラナルフへと向かってにっこりと微笑む。


 「………気持ち悪い、普通に話せ」


 ほんの少ししか言葉は交えていないが、急にリーシャの態度が変わればラナルフの整った顔が僅かに歪む。


 「気持ち悪いとは聞き捨てならないな。女心というものを解ってないんじゃないかい?」

 「女心を察する必要が無いから、お前を選んだんだ。そんなものを求めるな」

 「それが魔女と呼ばれる私を選んだ理由?だが、残念だけど私も女だよ。少しくらいは一般的な女心はともかく、私の気持ちを察してくれなくちゃ困る」

 「……例えば?」

 「政務で君の傍に居なきゃいけない時以外、自由に出歩く許可が欲しい。勿論、見張りもなしで。それに、私は薬草にも興味があるから、どこか庭の片隅にでも薬草を育てる許可が欲しいな。あとは、寝室は君次第だとしても自室が書庫の近くに一つ、あれば最高だ」

 「それは…女心とは言わないんじゃないか?」

 「他はどうであれ、私も女。女である私の気持ちを、男心とは言わないだろ?」

 
 どうも腑に落ちないが、言っていることが間違っているわけではない。言葉を使うのが上手いリーシャにラナルフはとんでもない女を選んでしまったんじゃないか、と顔を引きつらせる。そんな様子を眺めてリーシャは口を開く。


 「……優秀と聞いていたんだが…」

 「何だ?」

 「実は馬鹿だろう」

 「……」

 
 リーシャの目に映るラナルフの顔が今日一日の中で、最も歪んだ一瞬だった。


< 9 / 45 >

この作品をシェア

pagetop