オレンジ色の奇跡
「いいか、舞希。俺とは他人だ。
もし、俺が殴られようとも来るんじゃねぇぞ。
名前も呼ぶな」
有無も言わせないそのいつもより低い声に震えを覚える。
殴られようとも…ってやっぱり―――
それでも殴られる事を前提としている考えに、酷く怖いと思ったのと同時に、大好きな人が殴られているのを見てみぬ振りをしろと言うのか。
そんなことあたしにはできないと思い「嫌っ!」と叫びたかった。でも、それは声にならない。
声にしなくても、あたしの気持ちを伝える方法………っ!
岩佐先輩を見上げながら必死に顔を横に振った。
そんなあたしの気持ちを汲み取ったのか岩佐先輩は、長いため息をつき、あたしの頭に大きな手を置き、
「俺が喧嘩強ぇの知ってんだろ?
大丈夫。場合によって、相手に数発殴らせるだけだ。
それに、舞希の顔を覚えられたら後で痛ぇめにあう。
―――分かるだろ」
納得したくないのに納得せざる終えないこの状況に、あたしは静かに頭を上下させることしかできなかった。
「……自販機の前に行け」
クッと前を見据えながら言い放った言葉には緊張感が感じられ、この場で泣き喚きたいとすら思うほど。
岩佐先輩の言うとおりに近くの自動販売機の前にきて、聴覚のみで様子を伺った。