オレンジ色の奇跡



「あ"?岩佐じゃねぇか」

 結構離れた自動販売機まで聞こえる様な騒がしい声に、一瞬あたしの肩が上下した。

「………だから?」

 微かに聞こえる冷静な岩佐先輩の声。

「“だから?”じゃねぇよ。誰に向かって口聞いてんだよ?」

 語尾の強さからして「殺されてぇのか?あ"ん?」と聞こえてきそう。

 ぎゅっと握りこぶしを作り、胸の前で落ち着かせる。

「岩佐、てめぇよ、最近喧嘩しなくなったらしいなぁ?」

「そんなん俺の自由だろ。
お前らにつべこべ言われる筋合いねぇから」

 靴と地面のコンクリートが擦れる音がしたが、その音が骨と骨がぶつかり合う音に変貌したのは間もなくのことだった。

 今すぐにでも岩佐先輩の元に飛んでいきたい。

 ぎゅっと目を瞑りそんな気持ちを押し殺し、ただ時間が経つのを待った。

 数回、痛々しい音の後、誰かの息が切れる様な呼吸が聞こえてきた。

「―――気が済んだか?」

 はっきりとした声色に、威圧感を感じる岩佐先輩の声が耳に届く。

 その声からして、岩佐先輩が無事なことが分かりほっとしたのもつかの間。

「はぁ?んなわけねぇーだろ?

てめぇ……、俺達ナメてんのか?」

「…ふっ。

お前らを相手にするほど暇じゃねぇんだよ」

「てめぇっ!」

 一触即発―――

 今、この状況にピッタリの言葉が頭の中をぐるぐる回る。
 どうにかしなきゃ、と思うが、あたしには何もすることができない。




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