オレンジ色の奇跡



 再びあの音が聞こえると思っていたが、あたしの耳には、コンクリートの擦れる音しか聞こえない。

 不思議に思い、少しだけ体を半回転させ様子を伺えば、殴りかかった金メッシュの入った髪をしている男は、一瞬にして地面に転がっている。

 その男から岩佐先輩に目を遣れば、次々に襲いかかる男達を躱(かわ)す姿があった。

 岩佐先輩相手に、七人。そのうち二人は、その様子を見ている。

 呆気にとられたあたしはその体勢のまま見入っていた。

 そうだ―――
 岩佐先輩は強いんだ。

 こうやって喧嘩している姿を初めて見るけど、無駄のない動きに真剣な表情。
 そのすべてが新鮮で、岩佐先輩の新たな一面を見た感じ。

 じっと見ていたのが悪いのか、あたしの視線に気づいた一人の男がこちらを向いた。

 瞬間的にヤバイと感じ再び自販機に向き直る。

 こっちに来ませんように、と心の中で念仏の様に唱えたが、無駄だったご様子で。

 グッと右肩に重みを感じた。



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