オレンジ色の奇跡




「あなた、大丈夫?」

 男が去ったと思ったら、頭上から凛とした声が降ってきた。

 そのため、コンクリートから声の主を見るため首を持ち上げれば、そこには一人の女性が立っているではないか。

 き、きれぇ―――

 明るい栗色の髪をひとつに結い上げているその女性は、“綺麗”という言葉がピッタリ。

 ……あれ?この人どこかで見たことあるな。どこだっけ?

「立てる?」

「え?…あ、はい。
立てま――っ?!」

 立とうとしたが、左足首に激痛が走った。

 捻挫……?
 すごく痛いんですけどっ!

 痛みに顔を歪めていれば、綺麗な白くて細い手が伸びた。

「……腫れてるわね」

 そう呟いた後、少し斜め後ろを振り返り、

「―――啓輔?」

 ズキン――と胸が痛む音が聞こえる。

 “啓輔”という呼び名からして相当仲が良いのだろう。

 なんだろう。この変な気持ち。

 今あたしの目の前にいる超がつくほどの美人は、その綺麗な少し薄い唇から“けいすけ”と四文字を発した。

 そう、ただそれだけ。

 なのに、あたしの心は、酷く濁った水でいっぱいになる。


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