オレンジ色の奇跡


「…………さい」

「ん?」

「……ごめんなさい」

「ホント最悪だ」

「え……」

「嘘だよ。ウソ」

 ふっと柔らかく微笑みながらあたしを優しく抱きしめた。

 抱きしめた時、「殺菌、殺菌」と言いながらぎゅうっとしてくれたことは、千紗さんには内緒。

「千紗さん、綺麗ですね」

「顔だけだろ。中身は最悪だ」

「いい人だと思うけどな…」

 頭だけを動かし、岩佐先輩の肩ごしに誰かと電話をしている千紗さんを見た。

 正面、横顔、後ろ姿、共に完璧。

 何をしても様になるだろう。
 そんな人が近くにいるのに意識しないなんて……考えられない。

 どうなんだろう……。岩佐先輩は、千紗さんのこと一人の女性として―――

「穴開くんだけど?」

「え?あっ……うん」

 気がつけば、千紗さんではなく岩佐先輩を見ていたらしい。

 さっき考えていたことを悟られないように、岩佐先輩の口元に指を近づけた。



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