オレンジ色の奇跡


 ふと右側を見ると、真面目そうな岩佐先輩の横顔がある。

 あまりにも近くに顔があったから、心臓がビクンと跳ねた。
 慌てて岩佐先輩の横顔から自分の両膝に視線を変える。

 隙間がないくらいくっついているのに、岩佐先輩はあたしの腰に手を回し自分の方へ寄せながら「俺さ」と口を開いた。

「好きになったのが舞希で良かった」

「………え?」

 驚いて、岩佐先輩を見ると斜め下を向いて頭を掻いている。

 嬉しくて頬が緩む。

 そんな照れてる岩佐先輩の顔が見たくて、立ち上がり、丸椅子を引っ張って正面に座った。

「はぁー。まじ、恥ずかしぃ」

「ふふ。先輩可愛い」

「笑ってんじゃねぇよ」

 少しムッとしながらあたしを抱きしめ「はぁー」とため息をついた。

「親父が院長って言ったろ?」

「うん」

「今まではさ『すごーい!』とか『将来は医者なんだねー!』とか言われてたんだ」

「うん」

「別に俺はすごくねぇし、将来、医者になるつもりもねぇ。

だから、そういう風に言った女とはすぐ別れてたんだ。どうせ、金蔓(かねづる)にされるから。でも……」

「でも?」

「お前は、馬鹿みたいに親父に挨拶に行くって言うしさ。
初めてだよ。親父と俺を別として見る女は」


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