オレンジ色の奇跡


 再びダイニングに戻ると、岩佐先輩の姿が見当たらない。

 どこに行ったのか考えていると、キッチンのほうからガサガサと音が聞こえてきた。

 きっと岩佐先輩は、先ほど買った材料を冷蔵庫に入れているのだろう。

 物音を立てないよう静かにキッチンに近づく。

 ちょうど岩佐先輩の背中が見え、やっぱりな、と心の中で呟いた。

 慎重に、バレないように近づいていたつもりなのに、

「何してんの?」

 振り返らずに呟く岩佐先輩。

 いつのまにか止めていた空気を「はぁー」と、吐き出しながら残った距離を縮めた。

 何でバレたんだろ?
 背後から襲われた経験とかあるのかな?

 キッチンの床に座り、冷蔵庫と見つめ合っている岩佐先輩の金髪の頭を両手でグシャグシャにしながら、冷蔵庫の中身を覗いた。

 やっぱり、買ってたか……。
 っていうか、店員さんも見分けようよ。

「先輩、今日ソレ飲まないで下さいね」

「ん?酒のことか?」

「うん…」

「なんで?」

「え、だって……」

 あたしだって何も考えないで男の人の家に来るほどバカじゃない。


< 252 / 438 >

この作品をシェア

pagetop