オレンジ色の奇跡
岩佐先輩は、スタスタと歩く。 あたしは、岩佐先輩の少し後ろを歩いてるけど、岩佐先輩は歩くのが速い。
「なあ……」
「は、いっ?!」
ついて行くのがやっとのあたしは息が少し上がっていたのと、いきなり話し掛けられたのとで、声が裏返ってしまった。
「悪い。ちょっと速かったな」
と、歩くスピードをあたしに合わせ、少し緩めてくれる。
「すみません。歩くの遅くて……。 それで、なんですか?」
「あぁ、アイツさぁ……って祥也のことな? 椎葉のこと本気なんだ。相川は、よく分かんねぇかもだけど……。 昔っていうか椎葉と出会うまでは、女なんかとっかえひっかえで、すげー女たらしでさ。 でも、あいつは椎葉と出会ってから変わった。 ……だから、祥也のこと信用してくれねぇか?」
顔は見えないけど、声だけでどれほど真剣な表情で話してるのが分かる。それくらい、芯の通った声だった。
「私、神崎先輩のこと信じます。 確かに、神崎先輩の昔のことは知りません。 でも、優衣が決めたことだから。口出しする気も権利もありません。 もちろん、梨海も同じだと思います。 神崎先輩が優衣のこと、本気だって分かっただけで安心しました」
大丈夫。神崎先輩なら優衣を任せられる……気がする。
「そうか。……あと、1つ気を付けてほしいことがあるんだ」
不意に立ち止まった岩佐先輩は、くるりと踵を返してあたしを見下ろした。
「祥也って女より、男に恨まれてる。 だから、なるべく椎葉と一緒に行動してくれ。しばらくは、椎葉を一人にしないでほしい」
神崎先輩は彼氏がいる女の子にも手を出してた……っていうか、寄って来ちゃうのかな?神崎先輩にその気はなくても。
よし! 神崎先輩のことなんて全然分かんないけど、優衣はあたしたちが守る。
「大丈夫です。あたしが守りますから」
岩佐先輩は微笑んだ。それも、初めて見た優しい微笑み。