オレンジ色の奇跡


 さっきまでは、真っ白でふわふわしていたのに。

 真っ白だった部分が、スーッと足元から絡み付くように黒へと変わる。

 そのまま下に落ちてしまいそうな感覚に気が遠くなりそう。

 必死に耐えていると、たまに見る夢が再生された。

 ……途中まで同じなのに。

 いつもはここで終わるのに、何故か今日は暗闇に放り投げ出されない。

『舞希っ!!逃げろっ!!』

 朔兄の叫び声が響くと、大柄な男が目の前に現れた。

『ガキっ!何見てんだよ!』

 声に釣られて上を見上げれば、根元が黒いが金髪の厳(いかつ)い男。

 あたしを見下ろし睨み付け凄味の利いた声の後、腹部に鈍い痛みを感じ――階段から落ちた。

 気を失っているはずなのに、妙に救急車のサイレンと晴兄の怒鳴り散らす声が耳につく。

 あたしの頬を触るのはたぶん朔兄。

 泣きそうな声であたしの名を呼ぶ。

 あぁ。そうか……。

 あたしが小学6年の時、目覚めたら病院にいたのはこのことがあったからなんだ。

 あの時は何がなんだか分からなかったけど。

 スーッと体が重くなり自然と目が覚めた。


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