オレンジ色の奇跡


「あたし、決めた」

「何を?」

「岩佐先輩を殴る」

「………は?」

「もちろん、グーで」

「いやいや。舞希、意味分かんないよ」

「“好き”だからこそ、殴る」

「さらに理解不能よ」

 なんでだろ……。

 今、とっても、無性に、殴りたい。

 実行日はまだ未定だけど、いつか絶対一発は殴ってやる。

 あの喧嘩の強い岩佐先輩を殴るってことは、素早さが大切になるよね?

 ってことは、空手?

 空手なら今通ってる道場で、段を取っちゃえるような勢いで練習すればなんとかなりそう。

 そうと決れば、退院後すぐ頼めるようにミドリさん(笠井<かさい>空手道場の長女で、あたしのひとつ先輩なんだけど、すごく可愛くて優しいの)に連絡しなきゃ。

「ぶつぶつ言ってて怖いんだけど」

「ん?あ、ごめんね。これからの計画を練ってたの」

「……やっぱり兄妹って似るよね」

「梨海?何か言った?」

「ううん、別に」

 思い立ったら即行動のあたしは梨海に、ちょっと待ってて、と言い残し談話室に脚を運ぶ。


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