オレンジ色の奇跡


 スチャッと上半分をスライドさせミドリさんの番号を探しだし耳にあてる。

 意外とあっさり承諾してもらえたことに、若干不思議(普段なら「あそこのパフェ奢ってねっ」なんて後輩のあたしに平気で言っちゃう人なの)に思ったが、素直にお礼を言い電話を切った。

 それから病室に戻る途中にある自販機で缶ジュースを2本買い、それを抱えた時にあたしの意志とは関係なしに岩佐先輩との思い出が蘇った。

 5本の缶ジュースのうち1本をあたしに持たせ、残りは全部持ってくれた岩佐先輩。

 それに、歩く速度も合わせてくれた。

 ダメ、ダメよ、舞希。

 今思い出に浸ってしまったらキリがないし泣いちゃうでしょ、と岩佐先輩との思い出の再生に歯止めをかける。

 ………今度、岩佐先輩との思い出を振り返るときは、岩佐先輩と一緒にか、スッキリ綺麗に岩佐先輩への思いを絶てた時にしよう。

 そう心に刻み込み缶をキツく握りしめ梨海の元へと歩みを速めた。

 その途中聞こえてきたのは、足を止め耳を傾けたくなるようなピアノの音色と、すごく高音のはずなのにとげとげしさがない柔らかいイメージを与える美声。


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