オレンジ色の奇跡


 普通、あんな綺麗な歌声を聞いちゃったら名前とか年齢とか気になっちゃうよね。

 あたしが「はじめまして、相川(あるいは舞希?)です」って言ってれば、名乗ったかな?

 だから、優衣に「あの子、名前なんていうの?」って聞いたのは、いたって自然な流れ。

「知らないの。あの子の名前」

 なんて返ってくるとは考えてなかった。

 ポカーンと口を開けていたあたしに「舞希ちゃん、お口」と、優衣は自分の口を触ったのを見て慌てて閉じる。

「えっ。知らないって、さっき一緒に歌ってたじゃないっ」

「だって、そこにピアノがあったから鍵盤にちょっと触れたら『ピアノ、弾けますか?』って、言われたの」

「だからって最後にはハモっちゃうくらい息が合ってたのよ?」

「楽譜渡されたの。『これ、弾いてもらえますか?』なんて言われたから、いいかなぁって」

「なんてお人好しなのよ、優衣って」

 呆れてため息をついてるあたしを見て、優衣は「そうかな?」と柔らかく天使みたく笑ってみせる。

 うっわ。
 これじゃあ、神崎先輩もオチるよねぇ。


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