オレンジ色の奇跡


 俺らしくねぇなと思いつつ、何も入ってない軽いボロボロの鞄を掴み、重てぇ脚で廊下を進む。

 だんだんと騒がしい声が後ろに消えてくなか、角を曲がろうとした時、

「おい、てめぇ…」

 低くく疑いをかけるような声で誰かが誰かを引き止めた。

 おいおいおい。
 今、俺が曲がったら変な雰囲気に鉢合わせするじゃねぇかよ。

 遠回りすることに決めた俺が音を立てないように、踵を返した時だった。

「何ですか?」

 優しさを含めた、それでも相手と対等だということを表すかのような張りのある声が俺の耳を突き抜けた。

 踵を返して歩き始めたが、元いた角に戻り、息を殺す。

「お前、相川舞希だろ?」

「そうですけど、何か用ですか?」

 ほら、な。
 そこにいるのは、舞希、だ。

 俺が、聞き間違えるわけねぇんだよ。

 今の会話だけで考えると、曲がった所には、舞希と男二人がいる様子。

「おめぇ、岩佐の女だろ?」

 男は三人、か?

 ってか、そんなこと聞いてんじゃねぇよ。

「は?相川の妹じゃねぇの?」

「……つまり、両方ってことだな」

 ふーん。
 口調と声質から男は三人だな。

 こいつら、朔真さん側の奴らじゃねぇってことは……。


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