オレンジ色の奇跡


 今まで、ありがとうございました。

 ぐっと右腕を上げ、それを投げようとした時。

 意志とは関係なく体が後ろに引っ張られ、右手で持っていたそれを手放した。

 あたしの鎖骨より少し下辺りに男らしい腕が巻き付いている。

「…まきっ」

 息があがり、熱っぽく、でも、はっきりとした声があたしの耳に注がれる。

 紛れもない、この声は………。

「い、わさ先輩……?」

 なんで、どうして、これは夢?

 何がなんだか分からなくて、だけど、涙が零れて、でも背中は温かくて。

「大丈夫かっ?!」

 不意に聞こえてきたのは、心配そうな声色で。

「何がですか?」

 久しぶりに話すっていうのに、あたしの声は少し低い。

「さっき井上に『相川さんが連れていかれましたっ!!』って、言われたんだけど」

「……あたし、ひとりですけど?」

「は?まじ?
………でも、良かったー」

 ぎゅうっと、さらに強く腕を巻き付ける。

 ………意味、分かんないよ。

 岩佐先輩の腕を振りほどき、一歩二歩三歩と離れ、振り返った。


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