オレンジ色の奇跡
最悪。思い出したくないのに、背中がぞわぞわしてくる。気持ち悪い、気持ち悪いよ……。
あたしは、気分が悪くなってきたことを悟られないように、出来る限りの笑顔を優衣に向ける。
大丈夫。泣かない。泣いちゃだめ。我慢するの……我慢。笑わなきゃだめなんだから。
まだ6限の授業中だけど、そんな余裕なんてない。いいや。朔兄に電話して迎えに来てもらえば。
「相川ちょっとこい」
机に向かう養護教諭の石谷先生の背中に話し掛けようとした時、強引に岩佐先輩に腕を掴まれた。
「……なんですか?」
丸イスに座らされたと思ったら、頬に針を刺されたような痛さが走った。
「っ!!!!」
ビクッとなったあたしは岩佐先輩の顔を凝視。岩佐先輩の手には消毒液とピンセットに挟まれた脱脂綿が握られていた。
「っそんなに痛くねぇだろ?」
わ、笑ってるし!
「だって岩佐先輩がいきなりつけるからっ」
っていうか!普通、男の子がケガして女の子が『あんまり無茶しないでよ』で消毒して『いてえな!』みたいな感じじゃないの?
日本のマンガでそういうの読んだことあるし。
「悪い悪い。……これ、終わったら屋上行くぞ」
「えっ? はい。でも、何でですか?」
「ん? ただの気分転換」
ただの気分転換で屋上? ……屋上って入っていいの? っていうか、なるべくなら行きたくない。 ……けど、言ったってムダ、かな。
とりあえず、梨海に屋上に行くことだけを伝えて、あたしは岩佐先輩の背中について行った。