オレンジ色の奇跡
「じゃあ、啓輔。ちょっといいかな? 俺の部屋来て」
「あっ、はい」
ソファーから立ち上がった朔兄。それを追うように立ち上がった岩佐先輩。
「朔兄ご飯は?」
「まだだけど……舞希作れる?身体は?」
「大丈夫。作れるよ」
「じゃあよろしく」
朔兄はにっと笑ってから、自分の部屋に入っていった。
「岩佐先輩っ……」
続いて朔兄の部屋に入ろうとする岩佐先輩を慌てて呼び止めた。
「ん?」
岩佐先輩が立ち止まり振り返ったのを見て、あたしは距離を縮める。
「あんなに泣いて……しかも、そのまま寝ちゃったみたいで……。迷惑かけてすみませんでした」
思いきり下げた頭。それに、ぽん、と何かが乗った。
「そんなこと気にしてんじゃねえよ。迷惑じゃねえって……だから、頭上げろ?」
「本当にありがとうございます」
頭を上げて岩佐先輩にお礼を言えば、乗っかっていた大きな手のひらがぽんぽんと何度か跳ねた。
「いーえ」
少し照れたように笑いながら岩佐先輩は朔兄の部屋に入っていった。