オレンジ色の奇跡

 え? え? あたし、どうすればいいですか?なんだか動けないんですけど。

「あの……」

 蚊の鳴く様な声しか出なかったあたしは岩佐先輩を見上げた。

「この椅子不安定だって分かってんの? それより、俺の存在忘れてるだろ?俺に頼めばいいじゃねえかよ」

「でもっ……一応お客さんですし、ね?」

「はぁ? そんなんで椅子から落ちて怪我された方が困るんだよ」

 え? どうしてあたしが椅子から落ちてケガすると、岩佐先輩が困るんだろ。どうし――あ。

「……そっか。朔兄怒るもんね……」

 朔兄って怒ったら怖いみた――

「はあ……」

 今度はため息ですか? ああ、もうっ。ホント、ワケ分かんないなあ。朔兄に怒られるのが嫌――

「え? 今、なんて……?」

 ふいっと顔を反らした岩佐先輩は何も言わずに棚に手を伸ばす。

「どこ?」

「あ……右上に」

 え? え? え?

 だって、さっき言ったよね? 言ったよね?! あたし、ちゃんとこの耳で聞いた……よね?聞き間違えなんてこと、ない、と思うけど、でも。

 「……ちげーよ。ばーか」って小さい声で言ったのが聞こえたのは気のせい?

< 63 / 438 >

この作品をシェア

pagetop