オレンジ色の奇跡
え? え? あたし、どうすればいいですか?なんだか動けないんですけど。
「あの……」
蚊の鳴く様な声しか出なかったあたしは岩佐先輩を見上げた。
「この椅子不安定だって分かってんの? それより、俺の存在忘れてるだろ?俺に頼めばいいじゃねえかよ」
「でもっ……一応お客さんですし、ね?」
「はぁ? そんなんで椅子から落ちて怪我された方が困るんだよ」
え? どうしてあたしが椅子から落ちてケガすると、岩佐先輩が困るんだろ。どうし――あ。
「……そっか。朔兄怒るもんね……」
朔兄って怒ったら怖いみた――
「はあ……」
今度はため息ですか? ああ、もうっ。ホント、ワケ分かんないなあ。朔兄に怒られるのが嫌――
「え? 今、なんて……?」
ふいっと顔を反らした岩佐先輩は何も言わずに棚に手を伸ばす。
「どこ?」
「あ……右上に」
え? え? え?
だって、さっき言ったよね? 言ったよね?! あたし、ちゃんとこの耳で聞いた……よね?聞き間違えなんてこと、ない、と思うけど、でも。
「……ちげーよ。ばーか」って小さい声で言ったのが聞こえたのは気のせい?