オレンジ色の奇跡
「あたしのためだとしても、嘘をついてほしくない。 ……でも、嘘だって分かっててもどうすればいいかだって……」
言葉に詰まった相川は、俺の服を握る手に力を入れた。
「あたし帰ってこない方が良か――」
「相川!」
相川はビクッとなり顔をあげた。
「それ以上言うんじゃねえ! お前は帰ってきたかったから帰ってきた。それでいいんだよ。 大丈夫、朔真さんの嘘は大したことないから。 ……それに、俺がお前の傍にいる。だから、俺に頼ればいい」
相川がわぁーっと泣き出したのを見て、俺は相川を優しく抱きしめ頭を撫でた。
こいつは知らないんだよな。自分が記憶喪失だってこと。その記憶喪失に兄貴が関わってるってことも。
本当は悩まなくてもいいことで、相川は悩んでるのかもしれねえな。
でも、まあ。
この兄妹は大丈夫な気がする。ただの勘だけど、でも、確実な何かがある気がするんだよなあ。
ま、それが何だか分からねえんだけど。
相川のつるつるとした髪に指を絡めながら、こいつなら昔のことも乗り越えられるだろうと思った。