オレンジ色の奇跡

 岩佐先輩とケーキがどうとかバレンタインがどうとかと、他愛ない話をしていると、瞼が重くなってきた。

 目を擦りながら壁に掛かっている時計に目をやると、すでに23時を回っている。

「相川……もう寝ろ」

「うん……」

 岩佐先輩の優しさに“うん”と答えるのがやっとのあたしは、ゆっくりともさもさとベッドに潜り込み10分もしないうちに眠りに落ちた。


 ――雨が強く降っている。

 お気に入りのピンク色の傘をさすあたしは階段を上った。

 階段を上りきってすぐに怒鳴り声が聞こえて、声がする方へ顔を向ければ、そこには朔兄の姿。

「さくにぃーっ!」

 あたしはいつものように大声で朔兄を呼んだ。でも、いつものように笑って手を振ってくれる朔兄じゃなかった。

 あたしの周りが暗くなった、と思ってちらっと横を見れば、大きな男の人が立っていた。

「舞希っ!!!! 逃げろ!!!!」

 朔兄の叫び声と同時にあたしの視界は真っ暗になった。

 真っ暗闇の中、必死に走り回るけど、どこにも出口は見つからない。怖いっ……怖いっ!

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