ヒトメボレ[完]
もう少し近くへ来てくれたら、何かきっかけを作って話しかけるのに。

なんて、実際近くにいてもそんなことできる自信もなくて。

いい年して、思春期の恋愛みたいにときめいている俺がいて。

会社で後輩に話したら、「ひと目ぼれですね」って笑われた。

でも、これはそうかもしれない。一目ぼれ。

初めて彼女を見つけたときから、ずっと気になっている。

毎日、彼女を探している俺がいる。


ある朝。

いつものように電車に乗り込むと、なんだかいつもより人が少ないなとは思っていた。

2駅過ぎて、いつもならそろそろ座席に空きがなくなる頃なのに、今日はまだ空いている席が多くて。

さりげなく鞄を自分の隣のあいている座席に置いて、人が座りにくいようにしてみた。

混んできて、どけてと言われたら素直にどけるつもりだけど、彼女の乗り込んでくる駅までどうか誰も座りに来ませんように。

そんな俺の願いがかなったのか。
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