ヒトメボレ[完]
俺の自己紹介に彼女は答えてくれるのだろうか。

ドキドキしながら彼女の言葉を待つ。

手を胸に当てて小さく呼吸を整えている彼女。

緊張するよな、知らない男に声掛けられて名前教えてなんて。

でも、電車は混んでいて。

駅に着くまで身動き取れない状況だから、今は彼女に逃げ道はなくて。

ちょっとかわいそうだったかな、とも思うけど、嫌われてしまうならもう少しだけ一緒にいたいとも思ってしまう。

「えっと、あの、私、マユ、です。中山マユ、です」

真っ赤な顔をして、そう呟くように教えてくれた彼女。

「マユ・・・」

思わず声に出して名前を読んでしまった。

「は、はい」

俺のつぶやきのような声にも反応して、上ずった声で返事をしてくれた彼女。

どうしよう、どうしたらいいんだろう。


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