御影の王
乙女は俺を睨みつけたまま言う。

「争奪戦はこの間の竹刀での打ち合いとは一線を画する。抜き身の刃同士での斬り合いとなる。殺し合いだ。しかも法には触れない。この事が何を意味するかわかるか?」

「この御影市が無法地帯となるという事だろう?警察にも誰にも助けは期待できない。己の身は己でしか守れない。まさしく戦争という訳だ」

笑みを絶やさぬまま、俺は返す。

乙女からしてみれば、己の状況を把握できていない馬鹿者にも見えたかもしれない。

その事が、余計に彼女を苛立たせていた。

それでも。

「紅」

彼女は努めて冷静を保とうとする。

「争奪戦には命を落とす以外に、自ら敗北を認める事で脱落するという方法もある。対峙した相手に負けを認めれば、命を落とさずともこの戦いから抜ける事ができる。その場合再参加は認められないが、死ぬよりはマシであろう」

「……」

言いたい事はわかっている。

つまり目の前の乙女に、戦う前から敗北を宣言しろというのだ。

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