御影の王
道行く人々が、私を奇異の目で見る。

何かの撮影か、コスプレか、ともすれば頭のおかしい奴程度に見られているかもしれない。

だがそんな視線などお構い無しに、私は人混みの流れとは反対に、人波を縫うように通りを歩く。

…必ず。

必ず私を見ている者がいる筈だ。

人混みの中からか、物陰からか、ビルの屋上からか。

どこかに身を隠し、私に仕掛ける機を窺っている。

そんな争奪戦の参加者が、必ずどこかに潜んでいる筈だ。

否が応にも緊張感が増し、口の中がカラカラに渇く。

幼い頃から剣術の稽古は積んできたものの、本格的な実戦はまだ経験がない。

ましてや真剣での打ち合いなど。

人を斬った事も、殺めた事もない私に、御影の王争奪戦を勝ち抜く事が出来るのか。

不安だけが胸の中で肥大していく。

そんな私の胸中など考慮してくれる筈もなく。

「!」

突き刺さるような視線が、私の背中に注がれた。



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