魔王様!まさかアイツは吸血鬼?【恋人は魔王様‐X'mas Ver.‐】
「じゃあ、やってみようか☆」

確かに30分近くかけて、彼は懇切丁寧に説明してくれたと思う。

……思うよ?

斜面に対してボードを横に向け、エッジを立てボードをずらしながら降りるサイドスリップ。

斜面に平行にボードを向け、左右に滑りながら降りていく木の葉落とし。

バックサイドターンにフロントサイドターン。

そして、幾つかの転び方。

初心者の私が、頭の中で絵が描けるくらい説明できる能力は凄いと思う。

彼の会話術は私との戯言だけに活かされるわけじゃなかったのね、と、認めてあげてもいいくらいではある。

でもさ。

言い終わった直後、すぅっと独りで滑り降りていくのはどうかと思うわけよ。

ゴーグルで顔もろくに見えないというのに、どうかすると、その辺に居る人皆の視線をかっさらっていく綺麗な滑り方。

「おいで」

って。

さほど遠くないところでターンを決めて、山のほうを向くと私に手を伸ばしている。

いやいやいや。

分かってます?

アナタに向いていた視線が、その瞬間、ざっと私のほうにやってきたこと!

もっとも、腹が立つことにその直後「なんだ、インストラクターだったのか」みたいな顔で、皆の視線が少なくとも私からは逸れていったんだけど……。

喜んでいいのかしら?
< 182 / 390 >

この作品をシェア

pagetop