魔王様!まさかアイツは吸血鬼?【恋人は魔王様‐X'mas Ver.‐】
キョウは私を広い胸に抱き寄せ、その話を終え、感情の見えない声で続けた。

「俺は、もちろんそのオリジナルとは容姿も性格も違う。
だけど、多分、小心なんだよ。
惚れた相手を無理矢理手に入れたくはないんだ」

……無理矢理手に入れたくないのに、夫を殺害し続けるっていうのは、人間には理解できない行動ですが?

ま、まぁ。
それはキョウの犯行じゃないから、言っても仕方が無いし。

それよりも。
あんなに、不遜な態度なのに、小心って……。

変よ、キョウ。

私は涙の乾いた顔をあげる。
唐突に、目があって驚いたのか、黒い瞳がふわりと揺れた。

「そんなの、オカシイわ。
いいわよ。
千人殺したら、神様が願いを叶えてくれるように。
千年もキョウが待っていてくれたって言うんだったら、私が願いを叶えてあげるわよ。
無理矢理、マドンナ・リリーをその手に捕らえたらどう?」



私の脳裏に浮かぶのは、荒涼とした山の上、その地面にたった一本孤独に生える、白い小さなユリの花。
それは、アダムとイブの落し物。
あるいは、キリストの受胎を聖母マリア告げるときに、大天使ミカエルがそっと携えていた小さな花の末裔だ。
傍に居るのは、涙を流す獣。

……耐えられず、それを、人に戻した。
  ユリの精。

ユリの精に、罪はある。

獣の涙に耐え切れなかったのだ。
頼まれた、わけじゃない。

一人ぼっちの山の上で、長い年月の後、ようやく会えたその生き物に。
傍で笑っていて欲しかった。

ただ、それだけのエゴで。
千年もの間――

魔界で、その<獣>を独りぼっちにして苦しめた。

罪を犯したのはユリの精で、<獣>は被害者に過ぎないというのに。
ユリの精は、その記憶も無くしてのうのうと人間界で輪廻転生し続けている――。
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