魔王様!まさかアイツは吸血鬼?【恋人は魔王様‐X'mas Ver.‐】
「あの時も、あなたはそんな目をして私を見た後に。
私を人に戻した。
――今度は、何をするつもりですか?
もう、二度と。
私のために貴女を罪人になんてしたくない――」

それは。
魔王様としてではなく。
かつての人間として、彼が放った言葉だった。

抱きしめることさえ、畏れ多いかのように力が緩んだことがそれを証明している。

「リリー。
貴女は覚えてないでしょうけれど、私は獣の姿でも、もう、良かったんです。
あの山の上で、ひっそり咲いている貴女に微笑んでもらえた。
それだけで、もう、十分に幸せでした。
――涙しか流せなかったのは、他に物事をあらわす術を忘れ去っていたからなんです。
あの時既に、私は――
十分に幸せでした」

哀しくないのに。
辛くもないのに。



何故かしら。

その、過去の幸せを、ただひたすらに噛み締めて紡がれるその言葉を耳にしたら。



胸が、いっぱいになって。


さっきまでとは、全然違う。
まるで、別のところから。

溢れたかのように、一筋の涙が、すぅと滑り落ちていった。
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