魔王様!まさかアイツは吸血鬼?【恋人は魔王様‐X'mas Ver.‐】
「それは、百人殺したら願いが叶うっていう……アレ?」

おや、ご存知でしたか、と。
安心したようにエイイチロウが口許を緩ませたので、私はそれを「吸血鬼から聞いた」とは言い出せなかった。

ただ、無言でこくりと頷く。

「ただ、魔王様の場合そもそもの職務が調伏のようなものですからね。
神様が突きつけた条件は、千人。
千人調伏すれば、一つ、願いを叶えましょう、というわけです」

いやいや、『というわけです』なんて軽くいなされても困るんですけど。

「それって、大変?」

「フツーに、人を千人殺すくらいには大変でしょうね」

なんて、テーブルの上のチョコレートを摘みながらエイイチロウが答えた。

私は平和ボケした日本で暮らしているから、そんなこと言われても全然ぴんと来ないけど。

でも、想像くらいは出来る。

いや、想像なんて出来ない。

私がどれほど、血しぶきや、阿鼻叫喚や、倒れ行く人々を想像したとしても、現実はそれをはるかに凌ぐ大変さなんだろう、としか。

分からない。

私が今までテレビや映画やニュースで見た、殺戮シーンなんて。
所詮は匂いすら分からないまがい物でしかないのだから。

いくら、ドキュメンタリーであったとしても。

私が黙り込んだのを見て、エイイチロウは焦ったのだろう。
にこやかな笑みを浮かべて唇を開く。

「でも、ユリア様が気にされることじゃないんですっ。
魔王様は、ユリア様に逢えるなら他の何も厭わないっていつも言われていますもの」

そんなに軽く言われても。
そんなに軽くは受け止められなくて。

私はもう、ここがホストクラブの一角であることすら忘れそうになっていた。
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