雨の闖入者 The Best BondS-2
「ゼルっ?!」


エナが狼狽した声を上げる。


捕まえて、今度こそ事情を聞きだすつもりだったジストが口の中で「くそっ」と小さく罵った。


「退けっ」


エナの手から工具を奪い、
押し退けるようにゼルの部屋の扉の前に立ったジストに「あたし開ける」と進言しようとした時、

ジストがドアノブを捻り、弾かせるように押した。



扉が開く。



ものの十秒足らずの間に鍵を開けてのけたのだ。


「あんたって……」


「能ある鷹は何とかってね」


顎でエナを促すジストに油断なんない奴ねと舌打ちをして部屋に飛び込む。


入り口のすぐ横にある電気のスイッチを押して振り返る。


暗闇に慣れた目が白熱灯の明るさに霞む。

ラフが緊迫した野太い声でにゃあと鳴く。


「な……っ?!」


ゼルはベッドの上でうつ伏せに横たわっていた。

全身を朱に染めて。


意識は無いようだが、溢れ出る鮮血はまるで生き物のようにシーツに染みを広げていく。


背後で銃を取り出す音がする。

エナも腰に携えた三節棍を手に掛け、周りを見渡した。


ドアの陰、閉ざされたクローゼット、締め切られた窓。


切り裂かれて鮮血を流すゼルが居るベッドの下の隙間。


「ジスト!」


顔も見ずに名前だけを呼ぶ。


普段は言わなければなかなか伝わらない思考が、こういうときは何故か何も言わなくても意思の疎通が可能になる。


お互いが戦いの中に身を置いてきたという証拠だ。



銃を構えてベッドに近付く。

三節棍を抜き取り、クローゼットに近付く。



「!」



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