雨の闖入者 The Best BondS-2
「何が起こってンのよ?!」


動揺していたエナであるが、一つの可能性にぶちあたる。


ジストはエナが部屋から出ていないと言った。


ちゃらんぽらんだし、適当な物言いが目立つ彼だが、こんな場面で嘘をついたりしない。


自分のメリットにならないところでの嘘はついたりしないのだ。


(そういえば……あたし、濡れた服、どうしたっけ……)


乾かした覚えが無い。


白湯を飲んだ後の湯呑みを片付けた覚えも。


残っているのは、外に出たという事実だけ。


そして、昼間に行った湖に無かったものが、夜中に突然出現していたり……。


それに、ジストが目を醒ました瞬間に告げた言葉。


夢が命の危険を示唆していたことの表れ。


「……あぁ……」


エナは額に手を充てた。


心に引っ掛かっていたもやもやが一気に晴れたからだ。


あの、闇をこごらせたような男は何と言ったか。


何故思うように歪まぬ、と言わなかったか。


あれは、既に歪んだ現実だったのだ。


現実に限りなく近い、夢の上に出来た儚い楼上。


屋敷を抜け出したのも、あの男に会ったのも、全て夢の中での出来事だったのだ。


本当の自分はただただ眠りこけていたというのに!




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