雨の闖入者 The Best BondS-2
「ゼル!起きてっ!起きろってば!」


止血をするエナの顔には、真実が見えたからこその焦りが浮かぶ。


「あんたが暗示にかかりやすいのはわかったからっ!起きろ!死にたいの?!」


呻くばかりのゼルが目を開ける素振りを見せないことこそが、何よりも脳裏に警鐘を鳴らす。


キン、と背後で音がした。


振り返ると、悠長にも壁にもたれ掛かり煙草に火をつけた、怖いまでに落ち着いた紅の男が目に入る。


先程の音はジッポライターを開いた時の音だったようだ。


「何暢気に煙草吹かしくさって……!あっ!そうだっ!!」


「どしたのー?エナちゃん」


「水晶っ!あんたが起きた時みたく、ぶつけたら光ぱぁーって!ぱぁーって!!」


落ち着きなよ、と、のほほんと言うジストの声など耳に入らない。


焦りの余り、もたつく手つきで胸元から水晶を取り出し、ジストの水晶をしっかりと手に持つ。


期待と不安に息を飲み、カチリと触れ合わせる。


「………」


「………」


静寂が辺りを包む。


だが、望む事象は起こらなかった。


「なぁんで?! さっきは確かに…!」


答えを求めて声だけを意識的にジストに向けるが、
対するジストの返事はそっけない……というよりも冷酷なものだった。


「まあ、ジストさんはゼルがどうなろうと興味ないし? そもそもコイツ邪魔だったし?」


その発言にエナの顔は紅潮した。


怒りが体を凌駕したのだ。


はぁ、と溜め息を一つ吐き出す。

怒りを越えて、諦めにまで到達してしまったからだ。


人として最低だとか、
鬼だとか、
馬鹿言うなだとか、
様々な言葉が一瞬脳裏を埋めつくしたが、

今の状況下において、口を開く価値も無いと自らを去(イ)なした。

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