雨の闖入者 The Best BondS-2
「……何か……方法……このままじゃゼルは……」
確実に夢に現実を喰われてしまう。
一つ一つの傷は深くないが、無数に走る傷が命を削っていくのはたやすく見てとれた。
「……や、め……」
「ゼル?!」
苦しげに呻いたゼルの弱々しい声にエナは掴みかかった。
「起きて!!夢は見るモノで!見せられるモノじゃない!!」
「……ロ、ウ……!」
言葉をたたき付けたエナの耳に届いたのは、今はもう現実に居ないゼルの弟の名前。
「駄目!バカ!!もう居ない弟よりも!あたしを呼びなさい!!」
ジストの手から逃れたラフがベッドに上り、血に染まったゼルの服を引っ張った。
「ゼル!あたしは此処に居るんだから!思い出して!絶対助けるから!あたしの名前、呼べっ!」
ぱぁん、と小気味良い音をたてて頬を張る。
「約束したんでしょ!世界一の剣士になるんでしょーが!!」
ジストが窓を開け、雨が降りしきる暗闇の中に煙草を弾きとばした。
必死に呼びかけるエナに憐憫の眼差しを向ける。
何故、そこまで必死になれるのかとジストは思う。
呼べと言い、呼ばれることのなかった時の心の痛みを知らぬ娘。
呼べば応える声があると信じて疑わない無垢にして傲慢な娘。
自分を苛立たせる唯一の存在。
だが、だからこそ目が離せない存在。
そんな視線の先で、少女は真っ直ぐな瞳でゼルの命へと訴える。