雨の闖入者 The Best BondS-2

「八人分なんて一気に持って帰れっかよ……何考えてんだ母ちゃんは」

「いつも荷台で運んでるじゃない。それに、八人分って、それじゃ多いよ?」

噛み合わない、その言葉に痼(シコリ)が生まれる。

ずくずくと途方もない不安を伴い、それは瞬く間に大きく育つ。


「そんなワケねぇだろ」


八人だ。

家族は八人居る。

母にディルグレイ、アルラウド、セリアにテリア。
そしてロウウェルとゼル自身。


それから。


それから……?


「そんなワケないわけがないよ、ゼル兄一体どうしたの?」


何度頭で考えてみても七人しか浮かばない。

それもそうだ。

今言った人間以外は存在しないのだから。

けれど八人なのだ。

心と頭が食い違い、体内で悲鳴を上げる。

目の前がぐるぐると回るような感覚。

吐き気すらももよおして、ゼルは堪らず下を向いた。

他にもかけがえのない家族が居た筈だ。

再びしゃがみこみ、そこでふと。


「!?」


青々とした芝生に落ちた自分の影が――無いことに気付いた。

有り得ない、その現象。

たった一つ目の前に存在する、この困惑の鍵と為り得る現象。


「ゼル兄? 大丈夫?」


小川を渡ってくるロウウェルの足元を見つめる。

やはり其処に影は無い。


「……ロウ……」


縋るような目を向けるとロウウェルは小川の真ん中で立ち止まった。


「家族は、何人だ……?」


不安に苛まれながらゼルは問うた。


今までの穏やかな時間が崩れ去ると、心の何処かで知りながら。




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