雨の闖入者 The Best BondS-2
「僕、ゼル兄と戦ってみたかったんだ」


好戦的とさえ呼べる口調にゼルは愕然とした。


「……たたか、う?」

「そう。だから素手で、なんて言わない。これを使って」


光が消え去った後、掲げられたままのロウウェルの手に握られていたのは一振りの剣。

それを軽く投げ上げたロウウェルは空いた手をまた己の剣へと添えた。

正確にゼルの手元に向かって投げられた剣は弧を描いてその手に収まる。

ゼルはその剣とロウウェルの間で視線を何度か往復させた。


「僕はゼル兄を殺す。死にたくなければ僕を殺せばいい。まあ、僕はもう死んでるから消滅って方が正しいのかな」


それを戦いと呼ぶロウウェルにゼルは胸が痛くなった。

こんなのものは戦いではない。

戦いとは呼ばない。


「ロウと殺し合いなんて……できっかよ」

「じゃあ、このまま死ぬの?」


ロウウェルは挑戦的な光を目に宿す。


「ねえ、死ぬの? ゼランディール」


聞き覚えの無い単語。

何かの、固有名詞。

その聞きなれぬその単語に何故か心臓が反応した。

心の芯が震える。


「ああ、やっぱり覚えてなくても識(シ)ってるんだね」


ロウウェルはくすくすと笑った。

可笑しくもなさそうに。


「ゼル兄は、本当の家族じゃなかったんだもんね」


言っている意味はわからなかった。

けれど、そこに何かの意図が含まれているのはわかる。

元々ゼル達家族に血が繋がっている者など居ない。双子のテリアとセリアを除いて。

その上で自分だけ本当の家族ではないと敢えて区別する理由は何なのだろう。

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