雨の闖入者 The Best BondS-2
「どーゆーこった……?」
知らず眉を顰めていたのだろう。
「また、寄ってるよ」
そう言ってロウウェルは自身の眉間に指を当てた。
「ゼル兄には本当の名前があるでしょ。本当の親がつけてくれたゼランディールって名前が」
「本当の、親……?」
本当の親が居るなど、考えたことも無かった。
そんなもの、居なくても不自由したことなど無い。
たらればを考える必要もない程にちゃんと大切な家族が居たから。
幸せな家庭で育ったと自負しているのだから。
それなのに心の芯はまた名前に反応して、震える。
だが、そんな名前は知らない。
「知るかよ。結局はオレを捨てた奴等だ」
別に捨てられたことを恨んではいない。
ただ、ゼルからすれば他人よりも遠い存在というだけだ。
「ずるいこと、言わないでよ。唯一、親に愛された捨て子だったっていうのに」
唯一愛された捨て子。
そんなもの、存在するのだろうか。
「関係ねェよ」
ゼルの言葉にロウウェルは困ったように笑う。
「関係なくないよ。ゼル兄だけは、本当の名前で呼ばれてたんだから」
その言葉に言いようのない不安が募る。
「何言ってンだよ、ロウ……」
本物の家族だと思っていた。
本当の家族以上に本物の家族だと思っていた。
だが、本当の名前とは、一体何だ。
そんな名前で呼ばれたことなど、一度だって有りはしない。
「僕達は母さんに本当の名前を貰ったから、血が違っても家族になれた。だけど、ゼル兄は……家族みたいだったけど、やっぱり他人だ」
宣告するように、ロウウェルは告げる。
「気付かなかった? 僕達はみんな愛称で呼び合ってた。だけど、誰かさんはたった二文字」
ゼルは目を俄かに見開いた。
確かに、そうだ。
ロウウェルにしろ、ディルグレイ、アルラウド、セリアやテリアの三文字の名前ですら、短縮し、愛称で呼び合っていた。
その中で、ゼルだけが愛称を持たない、たった二文字。
だが、母が付けた名前に規則性などなかったし、疑問に感じたことなどなかった。