雨の闖入者 The Best BondS-2
「僕だって、ゼル兄のせいだなんて思ってないよ」


ロウウェルは静かに言葉を紡いだ。

そこに嘘や気遣いが含まれていないか否かを見定めたくてゼルは目を凝らした。


「僕に皆を守るだけの力がなかっただけ。だから死んじゃったことに後悔はしてないよ」


出来ることなら聞いてみたいと常々思っていた疑問の答えが悪いものではないと知り、ほっとするゼルを尻目にロウウェルは爽やかな声で「だって」と続ける。


「だって、ゼル兄は所詮、他人なんだもの」

全身が粟立った。

それは人間が持つ拒否反応。

聞きたくないという拒絶の反応。

これは夢だ。

夢だとわかっていても、ロウウェルの唇から紡がれる言葉は鈍器となってゼルを打ち据えた。

目の前のロウウェルは自分が作り出した幻想だと思いたい気持ちが膨れ上がる。

だが、ゼルが望まない言動こそが皮肉にもそれが真実ロウウェルの思惟によるものだという何よりの証拠。

交錯する思考の中で胸の中に重たい感情が広がり、言葉を押し潰す。


「だけど、心残りはある」


ロウウェルはいやにきっぱりと口にした。

ゼルはもはや何も言えず、ただ剣を持った手をだらりと下げてロウウェルの言葉にただ一度瞬きをしただけだった。


「夢をまだ……諦めきれないんだ」


ロウウェルはほんの少しの苦悩を露に呟いた。


「人を斬ったことも、力量を試す場もないまま呆気なく死んだ。だからゼル兄。貴方と剣を交えたかったんだ」


ロウウェルが持つ夢は本物だった。

だからこそ、ゼルはロウウェルに今剣を向けさせるのを止めたかった。

剣を携える以上、避けられない戦いというのはある。

剣を携える以上、手合わせをしたいと願うこともある。

だが、剣を携える以上、斬りたいと思ってはいけない。

剣士は如何なる理由があろうとも、斬りたいと思ってはいけないのだ。

剣とは、どんな綺麗ごとを並べても結局人を傷つける代物なのだから。

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