雨の闖入者 The Best BondS-2
「……き、気持ち悪………」
無理だ。全くもって似合わない。
鼻に水が入ったが、それすら気にならない程、脳裏に浮かぶ素直なジストの姿は不気味だった。
「そりゃ気持ち悪いよねー。つーんってするよね、大丈夫?」
「馬っ鹿、違うって。あんたが気持ち悪い……って」
降って湧いた声にごくごく普通に答えたエナは此れが通常の事態ではないことに気付き、勢いよく振り返った。
え、其れ普通に傷ついちゃうな、とのたまう人物――今の台詞だけ聞けば傷つくのは当然だ――に噛み付かんばかりの剣幕で怒鳴りつける。
「何で此処に居んのっ!」
紅の髪と瞳の自称『健全な青少年』は笑顔で首を傾げた。
「んーー、覗き?」
「堂々としすぎだ、馬鹿!」
エナは持ち込んでバスタブの脇に置いてあったナイフを思いっきり投げつけた。
この際、本当に刺さっても自分は悪くないと断言しよう、と心に決めて。
返す言葉の論点が何処かずれているような気がしないでもなかったが、この時のエナは少々、冷静さを欠いていた。
飛ばしたナイフを指と指の間で難なく受け止められたから、尚更だ。
「こんなもの此処まで持ち込むなんて、野蛮だね?」
受け止めたナイフを二、三度揺らしたジストはそれを後方に投げ捨てた。
風呂場にナイフの落ちる音が響き渡る。
「誰かさんみたいな馬鹿が居るからだ!」
あ、そう? と言いながらジストは笑顔を崩さぬままに近付いてくる。
いつもと変わらぬその笑顔が、今は恐ろしい。