雨の闖入者 The Best BondS-2

「っ! 何でこっち来るの! 近付くなっ!」

「だって、近くで見たいじゃん?」

「覗きは遠くでするモンよ! こら! 来るなって!!」


エナは持っていた残りのナイフを二本投げ付けた。

だが、一本は先程と同じ手で受け止められ、残る一本はナイフ同士を弾かせ、足の甲で柄から受けた。

そのナイフを蹴り上げ、宙に舞わせている間に手のナイフを放り投げ、最後のナイフが孤を描きながらその手に収まった。

この間、ジストは左手しか使っていない。

片手は常に空けておくことが当たり前と言わんばかりの判断力が彼の経験の多さを如実に物語っていた。


「自分の身は自分で守るんじゃなかったの?」


手で遊ばれた後、おもむろに放り投げられたナイフは、エナのうんと背後にある湯を吐きだすライオンの像の目に突き刺さった。


「無防備すぎない? エナちゃん」


にこやかな笑顔も、圧倒的な身体能力を見せつけられては恐怖にしか映らない。

だがそれに屈するようなエナではない。


「……ホント何者なの、あんた……」


喉の奥でエナが呻く。

そこには恐怖感よりも悔しさが強く滲み出ていた。

敵わないと認めることが悔しかった。

浴槽のすぐ傍まで歩み寄ったジストから体が見えぬように浴槽にへばりつき身を屈める。


そこでふと、ジストが何故こんな真似をするのかという疑問が湧きあがった。

覗き未遂なら今まで何度かあったが、実際それは彼なりの遊びの範疇で――それも充分悪趣味といえたが――実力行使に出るような男ではない。

エナの知る範囲では、という注釈付きではあったが。


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