雨の闖入者 The Best BondS-2
「……お前は本当に嫌な奴だな」
やがてジストは溜め息混じりに先ほどと同じ言葉を口にした。
だが、言葉とは裏腹に声はとても穏やかで、苦笑のような笑みさえ浮かぶ。
ジストはエナの濡れた頭をぽんと叩いた。
訳がわからずきょとんと上目使いで見つめ返したエナに、ジストはいつもの屈託のない無邪気な笑顔を披露した。
「全てがくだらないんだよ、俺にしたらね」
笑顔には似つかわしくない言葉をさらりと言ってジストは手を優雅に動かしエナの頬に触れた。
ひんやりとした指先の感覚が逆上せかけていたエナにはとても心地良く感じられた。
この言葉は彼の本音なのかもしれない。
人の命を何の躊躇いもなく奪ってしまえる人間だ。
そして恐ろしく狡猾で恐ろしい程に自分の欲求に素直に生きる男だ。
それなのにある意味で何も求めず、何にも執着しない男だ。
それくらいの思想を持っていたところで何の不思議もない。
だが、そんな彼の手はなんと優しくこの身に触れるのだろうか。
「だけどエナちゃんだけは別。だからね、もっと頼って?」
小さい子供に言い聞かせるような響き。
もしくは、懇願か。
それはもう先ほど此処に入ってきた時の雰囲気とは全くかけ離れていた。
「間違っても一人で真相究明に乗り出したりしないように。わかったね?」
エナの性格を熟知した上でのジストの言葉に、事実釘を刺されてしまったエナは憮然とした表情になった。
「なに? わざわざそれ、言いにきたわけ? こんな場所まで?」
行動を読まれて、しかも釘まで刺されたとあって、エナの声は自然とそっけないものになる。
ついでに言えば視線も恨みがましく睨むものになる。
不穏な空気を感じ取ったジストは勢いよく首を横に振り必死になって否定した。